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生成AIだけに頼らない、経営インパクトを生むAIの使い分けと課題設計

公開日:2026年6月15日

こんにちは。Anagraftの伊藤です。

「AIやデータ活用のコンサルティングをしています」と自己紹介をすると、ほぼ間違いなく、生成AIの話題になります。「ChatGPT/Claude Codeを業務でどう使えばいいか」「生成AIで何か新しいことができないか」。もちろん、これはとても良いことです。AIがこれほど多くの方の関心事になった時代は、これまでありませんでした。

ただ、その一方で、少しもったいないと感じることがあります。企業の中に眠っているデータから非効率を見つけ出し、予測や最適化によって利益に直結するインパクトを生み出す。そうした「生成AIではないAI」の活用が、生成AIの華やかさの陰で、議論の俎上にすら載りにくくなっている気がします。

本稿では、生成AIと従来型AI(予測・最適化など)の違いを整理したうえで、どちらを使うにしても欠かせない「課題設計」の考え方についてお話しします。生成AIを否定する話ではありません。むしろ、両者を正しく使い分けることで、AI投資の成果は大きく変わるというのが本稿の主張です。

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著者伊藤 瑛志

Anagraft(アナグラフト)合同会社 代表 AXプロジェクト顧問・支援
データサイエンティスト since 2013 BCG/ALBERT(現アクセンチュア)出身

「AIのご相談」が、いつも生成AIから始まる

ここ数年、企業のご担当者や経営者の方とAI活用についてお話しする機会のなかで、ある変化を感じています。以前は「AIをどう作ればいいか分からない」というご相談が多かったのに対し、現在は「生成AIをどう活用すべきか」という、ツールを特定したご相談がほとんどになりました。

会話のなかで需要予測や在庫最適化の話をしても、どこか話がかみ合わず、ピンと来ていないように見えることがあります。「AI活用」という言葉が、いつの間にか「生成AIの活用」とほぼ同義になってしまっていると感じます。

繰り返しになりますが、生成AIへの関心の高まり自体は歓迎すべきことです。問題は、AIの選択肢が生成AIだけに見えてしまうことで、本来もっと大きな経営インパクトを生み得る課題が、検討の対象から外れてしまうことにあります。

「AI=生成AI」になった背景

この状況は、ある意味で自然な流れでもあると思います。2022年11月のChatGPT公開以降、生成AIはこれまでにない速さで普及しました。誰もが自分の言葉で指示するだけで、文章作成や要約、調査、コード作成までこなしてくれる。専門家でなくても価値を体感できるという点で、生成AIは従来のAIとは比較にならないほど「分かりやすい」技術です。

従来の機械学習によるAIは、データサイエンティストがデータを整備し、モデルを構築して初めて動くものでした。経営者が自分の手で触って体感することは難しかったと思います。生成AIはこの障壁を取り払いました。「AIと言えば生成AI」という認識が広がったのは、その体験のインパクトの大きさゆえだと思います。

実際、企業への導入も急速に進んでいます。PwCが2026年に公表した「生成AIに関する実態調査2026春 6カ国比較」(大企業を中心とした調査)によれば、日本企業の生成AIの活用・推進度は87%に達し、米国など他国と大きく見劣りしない水準まで広がりました。導入そのものは、もはや一部の先進的な企業だけの取り組みではなくなっています。

一方で、期待した効果は出ているのか

では、その投資は経営成果につながっているのでしょうか。ここで、いくつかの調査データを見てみます。

  • PwCの同調査では、日本企業の生成AIの活用・推進度が87%に達した一方で、「期待を大きく上回る効果」を実感できている企業の割合は6カ国比較で最も低いという結果が出ています。導入は広がったのに、成果の実感が伴っていないのです。
  • 米MITのNANDAイニシアチブが2025年8月に公表したレポート「The GenAI Divide: State of AI in Business 2025」は、企業の生成AIパイロットの約95%が損益(P/L)に測定可能なインパクトを生んでいないと指摘し、大きな話題となりました。
  • マッキンゼーも、約8割の企業が生成AIを導入済みである一方、ほぼ同じ割合の企業が収益への明確な影響を実感できていないという「生成AIのパラドックス」を指摘しています。広く普及した汎用的な用途(チャットボットや文書作成支援)は効果が薄く広がりにくい一方、効果の大きい業務特化のユースケースの多くがPoC(実証実験)止まりになっている、というのがその構造です。
  • Gartnerが2024年8月に公表した「先進テクノロジのハイプ・サイクル2024」では、生成AIは「過度な期待」のピークを過ぎたと位置づけられ、関心の中心は基盤モデルへの熱狂からROIを生むユースケースへと移りつつあるとされています。これは生成AIが終わったという意味ではなく、過剰な期待が現実的な実装の議論へと修正されていく、技術の普及過程で必ず通る段階です。

これらのデータが示しているのは、「生成AIに価値がない」ということではありません。MITのレポートが成功企業と失敗企業の違いとして挙げているのは、業務プロセスへの深い統合や現場主導の導入といった、いわば「何の課題を、どう解くか」という設計の質です。つまり、うまくいかない原因の多くはツールから入ってしまい、課題の設計が後回しになる進め方にあると考えられます。

そしてこの「課題設計」こそ、生成AIブーム以前からAI活用の成否を分けてきた、変わらない本質です。

AIの地図を描き直す(予測・最適化AIと生成AI)

ここで一度、AIの全体像を整理してみます。現在「AI」と呼ばれているものは、得意とする問いの種類によって、大きく次のように分けられます。

従来型AI(予測・分類・最適化) 生成AI
得意な問い 「いくつ売れるか」「壊れる兆候はあるか」「どの組み合わせが最も効率的か」 「この文章を要約すると」「この資料を作ると」「このコードを書くと」
主な手法 機械学習(回帰・分類)、時系列予測、異常検知、数理最適化 大規模言語モデル(LLM)、画像・動画生成モデル
主な入力データ 自社の業務データ(販売実績、センサーデータ、行動ログなど) 言語・知識・画像(社内文書、Web上の知識など)
価値の出方 意思決定の質の向上 → 売上最大化、在庫削減、稼働率向上などP/Lに直結 知的作業の効率化 → 作業時間の削減、アウトプットの量と速度の向上
成功の条件 課題設計とデータの質。業務固有のデータがなければ動かない 業務プロセスへの統合と利用定着。汎用知識だけならすぐ使える

たとえば需要予測を考えてみます。業務データに接続していない生成AI単体に「来月、この商品はいくつ売れますか?」と尋ねても、根拠のある答えは返ってきません。生成AIは言語化された知識のパターンを学習したものであり、自社の販売実績・価格・天候・キャンペーン履歴といった業務データを知らないからです。需要予測に必要なのは、それらのデータを集めて整備し、業務の構造に合わせて予測モデルを設計することです。これは生成AIの登場前も後も、変わっていません。

「では、業務データに接続すればどうか」。最近はRAG(検索拡張生成。社内データを検索して回答に反映させる仕組み)やツール連携によって、生成AIに自社データを参照させることができるようになりました。これにより「昨年同月の販売実績は?」といった事実の参照や、関連情報の要約はできるようになります。しかし、それでも汎用的なLLM単体が、業務構造をモデル化せずに精度のある需要予測の数値をはじき出すわけではありません。需要予測には、季節性やトレンド、価格弾力性、欠品の影響といった構造をモデル化する専用の予測手法が必要だからです。業務データに接続された生成AIが担うのは、むしろ「どの予測モデルを呼び出し、その結果をどう現場に橋渡しするか」という司令塔の役割です。実際、近年伸びているのも、生成AI(LLM)が予測モデルや数理最適化、コード実行を“道具”として呼び出す「AIエージェント」型の構成です。いずれにせよ、価値の源泉は予測モデルを含む設計の側にあり、生成AIはそれを使いやすくする層だ、という関係は変わりません。

逆に、議事録の要約や問い合わせ対応文の下書きを従来型の機械学習で作ろうとすれば、膨大な開発コストがかかるでしょう。これらは生成AIの独壇場です。両者は、解く問題が違う技術なのです。

従来型AIのインパクトは「課題設計」で決まる

従来型AIが経営インパクトに直結する例として、需要予測と発注最適化を見てみます。

たとえばローソンは、AIによる需要予測を組み込んだ次世代発注システム「AI.CO(アイコ)」を2024年7月に全国の店舗へ導入しました。店舗別の販売実績・天候・品揃え・値引き履歴などのデータをもとに、発注数と値引きのタイミング・金額を一貫して推奨する仕組みです。日本経済新聞の報道によれば、AIによる仕入れ数予測で実需との誤差を3割程度改善する見通しとされ、同社は2030年までに店舗食品ロスの半減(2018年比)を目指しています。2026年1月に発表された決算でも、平均日販を伸ばせた要因の一つとしてAI.COの活用が挙げられています。公正取引委員会が2020年に公表したコンビニエンスストアの実態調査などでは、1店舗あたり年間およそ468万円分の食品が廃棄されているとされます。ローソンは国内に約1万4千店舗を展開していますから、チェーン全体の食品廃棄は単純計算で数百億円規模に及びます。

注目していただきたいのは、この種の取り組みの価値が「どのAIモデルを使ったか」ではなく、その手前の設計で決まっているという点です。私のご支援の際にはおおよそ次のステップを踏んで設計を行います。

  1. データの棚卸し:自社にどんなデータが、どんな粒度・期間・品質で蓄積されているかを把握する
  2. 非効率の特定:業務のどこに、データで捉えられるムダ(過剰在庫、欠品、ダウンタイム、過剰な値引きなど)があるかを特定する
  3. インパクトの試算:その非効率が解消されたら、いくらの利益改善になるのかを概算する。ここで投資判断の土台ができる
  4. 手法の選定:課題とデータに対して、予測モデルなのか、数理最適化なのか、生成AIなのか、あるいはAIですらなくBIや業務ルールの見直しで足りるのかを判断する
  5. 構築と運用設計:モデルを構築し、現場の業務フローに組み込み、精度と効果をモニタリングし続ける

お気づきのとおり、「生成AIを使うかどうか」が決まるのはステップ4です。順序が逆になり、ツールが先に決まってしまうと、そのツールで解ける課題を後から探すことになります。効果が出にくいのは、ある意味で当然なのかもしれません。

そしてもう一つ。ステップ1〜3は、生成AIに代行させることが難しい仕事です。どのデータに価値が眠っているか、業務のどこに非効率があるかは、現場とデータの両方を見なければ分かりません。地味ですが、ここがAI活用の成否を分ける本丸だと考えています。

生成AIが本当に活きる場面、そして組み合わせへ

誤解のないように、生成AIが力を発揮する場面も整理しておきます。

  • 知的作業の効率化:文書作成、要約、翻訳、調査、コード開発支援。ホワイトカラー業務の生産性向上はすでに多くの企業で成果が出ています
  • 非構造化データの構造化:問い合わせログ、日報、契約書などのテキストデータから情報を抽出し、分析可能なデータに変える。これは従来型AIの「入力データ」を増やす働きであり、両者をつなぐ重要な役割です
  • 専門技術の民主化:自然言語での対話を入口に、データ分析やシステム操作のハードルを下げる

さらに最近では、両者を組み合わせる動きが本格化しています。たとえば、需要予測モデルの出力を生成AIエージェントが解釈し、発注担当者に自然言語で推奨理由を説明する、といった構成です。こうした複数のAI技術を組み合わせるアプローチは、Gartnerの用語で「コンポジットAI(Composite AI)」と呼ばれ、AI活用の重要な方向性の一つとされています。

なお、時系列予測の領域でも、生成AIと同じ基盤モデルの技術を応用した予測モデル(TimeGPT、Amazonが公開するChronosなど)が登場しており、技術の境界は今後さらに溶けていくでしょう。ただし、それでも変わらないことがあります。どのデータで、どの課題を解き、どれだけのインパクトを狙うのかという設計は、モデルがどれほど進化しても自動では生まれない、ということです。

「生成AIで何ができるか」から「どの課題を解くか」へ問いを変える

ここまでの話を、経営者・DX推進のご担当者の方向けに、一つの問いの転換としてまとめます。

×「生成AIをどう活用するか?」
○「自社のどの課題を解けば、最も大きな利益改善になるか?その実現手段として最適なAIは何か?

前者の問いから始めると、検討の範囲は生成AIで解ける課題に限定されます。後者の問いから始めれば、生成AIも従来型AIも、等しく選択肢として比較できます。結果として生成AIが最適解になるなら、それで何の問題もありません。大切なのは、選択肢を最初から狭めないことだと思います。

もし自社のAI活用が「ツールは導入したが、効果がよく分からない」という状態にあるなら、一度立ち止まって、データの棚卸しとインパクトの試算から始め直すことをおすすめします。遠回りに見えて、それが最短経路だと私は考えています。

まとめ

本稿では、「AI活用=生成AI」という認識への違和感を出発点に、生成AIと従来型AI(予測・最適化)の違い、そして両者に共通して欠かせない「課題設計」の考え方をお話ししました。

  • 生成AIの普及は歓迎すべき変化。ただし「AIの選択肢」が生成AIだけに見えてしまうと、より大きな経営インパクトを生む課題が検討から漏れる
  • 調査データが示す生成AI投資の停滞は、ツールの問題ではなく、課題設計を後回しにした進め方の問題
  • 従来型AI(予測・最適化)は自社の業務データを使って意思決定の質を高め、P/Lに直結するインパクトを生む。その価値は「データ棚卸し→非効率の特定→インパクト試算→手法選定→構築・運用」という設計プロセスで決まる
  • 生成AIと従来型AIは解く問題が違う技術であり、今後は組み合わせ(コンポジットAI)が主流になる

Anagraftでは、特定のツールありきではなく、お客様のデータと業務の現実から出発して、インパクトのある課題を設計し、最適な手法で実現するご支援をしています。「生成AIも気になるが、自社のデータで何ができるのか知りたい」という段階のご相談も歓迎です。お気軽にお問い合わせください。

参考情報・出典